2010年06月04日

満月の夜に一匹の兎がにゃんと鳴いた話

 前足を両方使って大事そうに人参を持つと、目を瞑りながら一心不乱にかりぽりぽりかり。自慢の長い耳もだらしなく垂れてしまっている。そんな人参を食べる友ウサの姿は実に幸せそうで、ユキヲは持ってきた甲斐があったと喜んだ。見ていると心がほんのり色付くように幸せな気分が伝染するから、ユキヲは黙って観察することにする。そうでなくても食べ終わるまでは話にならないし、それはもう経験済みだった。
 そうやってユキヲが幸せでお腹がいっぱいになる頃、人参はすっかりなくなってしまった。
「ご馳走様。そうそう人参にはリボンを巻かなくて良いからね」
「それじゃプレゼントっぽくないから却下」
「名より実というんだよ」
「形式の美というんだよ」
 やれやれといわんばかりに大袈裟な溜め息をついて、友ウサは赤い目で月を見上げたから、ユキヲも一緒に眺めることにした。
 空は一枚布のように紺色だけで染められ、ぽっかり満月が浮かんでいる。その下を薄い雲が棚引いて、なかなかに絶景といえた。
「綺麗だね」
「あいつが?」
「あいつ?」
「あそこで餅ついてるやつさ」
「え?」
「あれ友達なんだ。今度紹介しようか?」
「うん是非」
「人参三本で手を打とう」
 取らぬ人参のウサギ算用をしているのか嬉しそうな顔しながら、友ウサは「けれど」と続けた。
「餅をつくことしか能が無いヤツなのに人間にはえらい人気なんだよなあ」
 不思議だ不思議だと小首を傾げる。そこでお餅が月から飛んできて、命中した友ウサはにゃんと鳴いた。


posted by sakana at 22:10| Comment(2) | ミルク特別篇 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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