2010年09月09日

執行猶予-stopped-

 僕は慌てて時間を止めた。

 物心ついたときにはもう時間を止める能力が目覚めていた。
 「時間が止まれば良い」なんてみんな言うけれど、僕にはそんなに魅力があるようなものには思えない。別に僕は自分の能力を出し惜しみしているわけではないし、有効に使えるものなら使いたい。
 でも、みんなは大事なことを解っていない。時間が止まるっていうことは、空気だって止まるのだ。当たり前といえば、当たり前。僕の周りにある空気は僕をしっかりと固定する。意識だけが自由。ゆっくりと物事を考えるには適しているけれど、ただそれだけの価値しかない。
 最初にこの能力に気付いたときは、金縛りに遇ったのかと思った。動けないし、息もできない。けれど不思議と苦しくなかった。落ちついて視線の先にある柱時計を見ると、秒針も動いていない。驚いて針が動くことをイメージしたら、思い出したように時計は廻り始め、試しに「止まれ」と念じたら、再び僕は動けなくなった。初めのうちは、面白半分に空中で止まったりして遊んでいたけれど、続けて使ったり無茶をすると非道く疲れてしまうという欠点がやっぱりあった。今のところは疲労以外の副作用は無いけれど、今後も無いかといえば、それは解らない。だからといってこの能力を誰かに調べてもらうわけにもいかないし、仮に診せたって、時間を止めた間に何も動かないのだから確かめようが無い。それでは良くて虚言癖があると診断されるか、悪くて違った趣旨の病院に連れていかれるだけだろう。
 だから僕は滅多なことがなければ時間を止めようとは思わない。第一、時間を止めたところで、すぐそこまで変えようの無い未来が待っているのだから。

 ……と、そんなどうでも良いことを、触れそうなほど近づいた真っ赤な車の隣りで僕は考えていた。


posted by sakana at 23:12| Comment(0) | その他千文字 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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