2010年11月08日

真夏の思い出

 緩やかなカーヴ。上り坂。道は視界から左に消える。右はガードレール。僕は目の上に手の平を持っていき、ガードレールの先を眺める。
 夏の日は長い。冬ならばもう夜が覆う時間。まだ夕闇。黄昏。
 右手に下げたコンヴィニの袋から、コーラを取り出す。缶は汗をかいている。まるで夏らしい夏を象徴しているように。
 この街の中で僕が一番好きな場所と時間。
「こんにちは」
 ガードレールに腰を掛けて、ただぼんやりと物思いに耽っている僕に話しかける声。
「こんにちは……姉さん」
 白のワンピースを纏い、涼しげに髪をなびかせる。自慢の姉だった。
「隣、良いわよね?」
「どうぞ」
 ゆっくりとした動作。姉はいつもこうだった。
「暑中お見舞い申し上げます」
「暑中お見舞い?」
 意外な言葉にリアクションの取れない僕が可笑しいのか、姉はころころと笑う。
 何を考えているのか解らないのも姉の特徴だった。
「ええ」
 姉はまた微笑んだ。まさに透き通る笑顔。
「それを言う為だけに? わざわざ向こうから?」
「ええ、そうよ」
 今はお盆。ここは姉さんが轢かれた場所だった。天国から姉が帰ってきてもおかしくない……か。


posted by sakana at 21:43| Comment(2) | その他千文字 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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