2009年06月23日

羽化

 蛹から脱皮したばかりだというのに虹色蝶々のサユリは少し憂鬱そうだった。羽根はまだ白っぽく濡れている。ユキヲはちょっと気になって立ち止まると、それを合図のようにまたため息がひとつこぼれた。
「ねえユキヲ。私は終わるわ」
 言っている意味がわからなくて、ユキヲは首を傾げるだけだった。
 物憂げな顔でサユリは続ける。「卵から孵ったとき私は幸せだった。葉を食べながらいつか生える背中の羽根のことを夢想して一度死んだわ。そして羽根を得てまた生まれた。でもね。今はもう次の自分を想像できないの。私は終わるわ」
 羽根が乾いた。
「じゃあ行くね」
 ユキヲは思う。葉に張り付いた卵、幹を登る芋虫、空を舞う蝶。段々と空を目指したその後は本当に死ぬだけなのだろうか。
 桃色蜘蛛が笑った。


posted by sakana at 16:25| Comment(0) | ミルク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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