2008年12月23日

ミルク

 ユキヲは夜の端っこで密やかにミルクを飲んでいた。グラスに浮かぶ水滴を通して黒の先を見る。
 朝は近い。
 確信めいた希望はすぐに裏切られる。まだ三時にも成らないのだ。
 夜と朝の境界線が見たい。
 たった其れだけのことの為に、ユキヲはじっと朝を待っている。夜が持つ絶望と朝特有の希望が混ざり合い、離れる瞬間をユキヲはじっと待っている。


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2009年01月20日

クイズ

 ユキヲは胸の高さまで隠れてしまう白いボックスの後ろに立っていた。
「……これは解答席?」
 小さな声に世界は反応して、カボチャ頭が並ぶ観客席が現れた。歓声はドップラ効果の様に小さく始まり、大きく近づき、儚く遠ざかる。
 そして司会者の登場。黒いタキシードの上には頭がなく、クエスチョンマークが代わりに乗っていた。
「さあ! 問題です!」
 簡単な問題の連続に、次々とユキヲは答えていく。
「またまた正解です! 次の問題は難しいですよ……それでは生きても死んでも、これが最後の問題です!」
 飛び交う観客の声援、野次、拍手。全てが大きくなっていく。
「<たったひとつの確実なもの>とは一体何?」
 ――そんなものなぞ果たして有るものだろうか? 人は死ぬ。それが答えか? ならば自分は生きているのか? そもそも生とは何なのだ? 0と1。それも真なり……
 それでもユキヲはユキヲの解答を口にする。
 それから司会者は肩を竦めて笑いながら問う。
「ファイナルアンサー?」
posted by sakana at 09:48| Comment(1) | ミルク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月21日

図工

 粘土があった。灰色の塊をユキヲは一所懸命捏ね回している。
 それを教えている先生は「もっと情熱を!」やら「もっと柔らかく」などと抽象的な言葉でしか、指示を与えていない。
 ユキヲは段々と苛々していき、ついにはこう言い放った。
「先生が造って見せてください」
 少し悲しげな表情で先生は粘土を捏ねて、ゆっくりと作品は完成していく。
 そうした後で出来たものは、情熱的で柔らかい<竜>のオブジェだった。
 本物なぞ見たことも無いユキヲではあったが、その竜の姿には納得するしかなかった。流れるような鱗の配置。荒々しく尖った牙。雄大に開いた翼。まさに全てが理想的な竜。
 ユキヲが造った狸にしか見えない竜が動き出し、その素晴らしい出来映えの命の入らない竜に求愛して、ユキヲを更に落ち込ませた。
posted by sakana at 17:09| Comment(1) | ミルク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月22日

ウィルス

 ユキヲの社会に蔓延しているウィルスの学名を日本語で<桃の涙ウィルス>という。真に珍しく手の平大の透明度が高い可視物質で仄かに桃色をしているのが特徴。気温が高くなると涙のように雫が零れるところからこの名が付いたといわれている。
 その外見の美しさとは裏腹にウィルスだけに病原菌であって、感染すると風邪に似た症状を起こす。
 例に漏れず、ユキヲの頬は桃色に染まっていた。
posted by sakana at 21:19| Comment(1) | ミルク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月23日

スロット

 一枚のコインを大事そうにユキヲは両手で包み込んでいる。
 目の前には一台のスロットマシーン。ちかちかと電飾が瞬いている。
 ユキヲはその一枚のコインを恐る恐る投入し、レバーを勢い良く回した。三つのロールバーに浮かんだ絵柄は速過ぎて、ユキヲの眼では追い切ることができない。
 先ず左が止まる。これは7。
 次に真ん中。これも7。
 最後に右。しかし1。

 そして771枚のコインが溢れ出た。
posted by sakana at 19:12| Comment(1) | ミルク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月26日

灯台

 机の上に置かれた灯台の光がユキヲを浮かび上がらせ、再び闇の中へと消し去り、今度は暗闇の中からこの部屋の持ち主が姿を現す。この部屋に用意された光源はその灯台だけだった。
「どうだい? 私の灯台は」
 解答を求めるように灯台に照らされ、ユキヲは応える。
「どうもこうも無い。全く明かりが足らないよ」
「こんなにも美しい光を発するのにか? これ以上明るさを求めたらそれは灯台ではなくライトスタンドになってしまうよ!」
「でも……」
 そこで明かりが廻り、一度言葉を切ってユキヲは続ける。「灯台自体が見えやしないんだ」
posted by sakana at 10:59| Comment(1) | ミルク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月27日

イカサマ

 ユキヲはカードを1枚チェンジした。ハートの7と引き換えに得たものは……スペードのA。この世で最強のロイヤルストレートフラッシュが完成した瞬間である。
 悠々とユキヲは言う。「コール」
 それを受けたMr.エッグマンは2枚チェンジ。
 そしてにやりと笑って言う。「良いだろう。コールだ」
 開かれた手は双方ともスペードのロイヤルストレートフラッシュ。
「……何てこった、こんな事が起こるのものなのか!」
 Mr.エッグマンの悲痛な叫び。
 それを受けてユキヲは溜息を共に言葉を吐く。
「だから言ったじゃないか……4次元ポーカなんて端から無理だって」
posted by sakana at 21:35| Comment(0) | ミルク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月28日

マーメイド

 暗い海の上に申し訳程度に顔を出した岩に腰を掛ける人魚が一人。其処は陸に近かった所為で、ユキヲの眼に彼女の姿が映っていた。
「ねえ!」
 思い切って声を張ってユキヲは尋ねる。
「!」
 その呼び掛けに驚いたのか人魚は慌てて海の中に潜ってしまった。
「……呼吸の方法を教えて欲しかっただけなのに」
 悔しそうに呟いたユキヲだったが、次の瞬間にはエラ呼吸をする人魚を頭に浮かべて、ふるふると頭を振っていた。
posted by sakana at 22:02| Comment(0) | ミルク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月29日

ドーナツ

 右手にドーナツ。左手にもドーナツ。
 ユキヲは悩んでいた。
 右から食べるべきか左から食べるべきか、を。
 先に食べた方が後に食べるドーナツよりも美味しいとすれば、不味いドーナツの味が口の中に残ってしまう。かといって後に食べた方が美味しいのならば、空腹というスパイスは効かなくなってしまう。
 ユキヲは迷った挙句、同時に二つのドーナツに噛り付いた。
 口の中で蕩けるように混ざり合ったドーナツは今まで食べてきたどんなドーナツよりも美味しいものだった。
 これが正解だった。
 そう感じながら、全てのドーナツをお腹の中に収納した満足げなユキヲは改めて考える。
 ひとつずつ食べたのなら一体どんな味がしたのだろうか、と。
posted by sakana at 15:46| Comment(0) | ミルク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月30日

氷柱

 大きな氷柱がある。ユキヲの背丈の二倍以上ある屋根からそれは伸びていて、頭がぶつかりそうなくらいだった。
「ひゃあ。これは見事な」
「そうだろう?」
 ユキヲが振り返ると、そこには人の良さそうなお爺さんがにこにこと笑っていた。
「ここまで育てるのには苦労したもんじゃよ」
「自然に出来たんじゃあないんですか?」
「馬鹿なこと言っちゃあいかん! 何もせずにここまで成長するわけなかろうて!」
「なんだ……えいやっ」
 その言葉に落胆したユキヲはその見事な氷柱を思い切り蹴飛ばした。ぐらりと一度揺れて氷柱は屋根にぶら下がることを止め地面に落ち、雪が大きな音を吸収してみせた。
「な! なんてことを!」
「人の力で作れるものなら、また作れば良いさ」
posted by sakana at 20:18| Comment(0) | ミルク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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